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最高裁判所第三小法廷 昭和27年(あ)302号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人奥村文輔の上告趣意第一点について。

記録によると、第一審では本件メモを他の鄭斗七の手紙とともに証拠物として取り扱い、これが証拠調の方法は、このメモを「展示」しその内容を「朗読」しているのであるから、これらの手紙からみれば右メモを「書面の意義が証拠となる証拠物」として取り扱っていること明らかである。そして、証拠物であっても書面の意義が証拠となる場合は、書証に準じて証拠能力があるかどうかを判断すべきものであることはいうまでもない。原審は、右メモを刑訴三二三条三号の書面に当るものとして証拠能力を認めたのであるが、同号の書面は、前二号の書面すなわち戸籍謄本、商業帳簿等に準ずる書面を意味するのであるから、これらの書面と同程度にその作成並びに内容の正確性について信頼できる書面をさすものであることは疑ない。しかるに、本件メモはその形体からみても単に心覚えのため書き留めた手帳であること明らかであるから、右の趣旨によるも刑訴三二三条三号の書面と認めることはできない。してみれば、本件メモに証拠能力があるか否かは、刑訴三二一条一項三号に定める要件を満すかによって決まるものといわなければならない。ところで、本件においては記録により明らかなとおり、鄭斗七は逃亡して所在不明であって公判期日において供述することができないものであるし、本件メモの内容は被告人劉の犯罪事実の存否の証明に欠くことができない関係にあるものと認められるのであるから、もし本件メモが鄭斗七の作成したもので、それが特に信用すべき情況の下にされたものであるということができれば、右メモは刑訴三二一条一項三号により証拠能力があることとなる(刑訴三二一条一項三号の供述書には署名押印を要しないことについては、すでに当裁判所昭和二八年(あ)五四四四号同二九年一一月二五日第一小法廷決定、集八巻一一号一八八八頁に判示されたとおりである)。そこで記録を調べてみると、本件メモは専売監視が裁判官の捜索押収令状によって鄭斗七方を捜索した際同家のタンスの中から発見されたものであり、千竜岳の専売監視に対する昭和二六年一月二七日附犯則事件調査顛末書によると、右メモは夫鄭斗七のものだと思うと述べられているので、かかる状況の下においては右メモは鄭斗七が使用していたものであり、同人の意思に従って作成されたものと認めることができる。そして、本件メモが前記のような経過によって発見され、鄭斗七の意思に従って作成されたものと認め得ること及びその形体、記載の態様に徴すれば、本件メモは鄭斗七の備忘のため取引の都度記入されたもので、特に信用すべき情況の下に作成されたものと認めるのを相当とする。

されば原審が本件メモを証拠としたことは結局において適法であるということができる。そして、原判決が証拠とした、被告人劉の検察官に対する各供述調書によれば、被告人は右メモの記載に応ずる供述をしているので、右メモは被告人の自白を補強する証拠となるから、原判決は被告人の自白だけで有罪としたものではないので、所論違憲の主張はその前提を欠き理由がない。

同二点について。

所論は、たばこ専売法六六条七一条は、日本専売公社のみをその競業者に比し厚く保護するもので憲法一四条に反すると主張し、原判決が日本専売公社は憲法一四条にいう「国民」に当らないとして右主張を排斥したことを非難する。しかしながら、たばこ専売法二条によれば「たばこ種子の輸入、葉たばこの一手買取、輸入及び売渡、製造たばこの製造、輸入及び販売並びに製造たばこ用巻紙の一手買取、輸入及び販売の権能は国に専属する」と規定していて、たばこの製造販売等は国のみが為し得るところで、一般国民は法律の規定により認められた場合を除く外、何人もこれを為し得ないのである。すなわち国は、たばこの製造販売等の権能を国民中一定の者に許すのではなく、国民に対してはすべて無差別にこれを禁止しているのである。ただ、国のみが有する右たばこ製造販売等の権能及びこれに伴う必要な事項を日本専売公社に行わせているにすぎない(たばこ専売法三条)。すなわち、たばこの製造販売等の権能及びこれに伴う必要な事項は、国だけが専売公社に行わせているのであって、所論のように日本専売公社を営業者として他の競業者に比して厚く保護するものではない。それ故、かかる事実を前提として日本専売公社の営業を犯す所犯を厳罰するものとする見地から、たばこ専売法六六条七一条が憲法一四条に違反すると主張する論旨は、その前提を欠くものである。されば、論旨を排斥した原判決の説明は適切でないとしても、その結論は結局において正当であるから、所論は採用することができない。

同第三点について。

所論は、量刑不当その他刑訴四一一条所定の事由があることを主張するものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして記録を調べても本件につき刑訴四一一条を適用すべき事由を認めることはできない。

よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)

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